かれこれもう6年ほど前に書きかけのまま放置していた、飛行機に乗り遅れた話の後編、ついに完結編だ。
飛行機に乗り遅れ、空港中を走り回って追加料金を工面するも、カウンターで待たされた挙句、明日また出直して来いと言われた私。(あらすじ)
え~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!
確かにそのカウンターで待っていた間に時間は10分ほど過ぎていた。
だがカウンターには11時半に着いて告げたのだから、それは約束の時間に間に合ったと考えてもいいのではないか。
「だって、着いて、、、11時半、、、お金を、、、」
と訴えてみるが、お兄さんはろくに話も聞いてくれない。
本人としては事務的に仕事をこなしているだけにしても親切な応対とは言えず、こちらとしては悪意すら感じてしまうほどだった。
もう有り金を全部おろしてしまったので現時点で明日の便の追加料金を払ってしまうと今度こそ本当にサンパウロの家に一旦帰るためのタクシー代すらひねり出せない。
家にも帰れないしベッドで寝れないどころか飲まず食わずで明日飛行機の時間まで空港でまる1日を過ごさなければならない。
日本円を空港内ではない通常のルートで換金していれば帰りのタクシー代くらいの余剰が出ていたのだが、もう換金してしまっているので今さら後悔してもあとのサンバカーニバル(既出だが好評につき)だ。
換金の旅に出かけてから1時間以上の間、カートを使っているとはいえ重い荷物を持ち空港の端から端までを走り回っていたので、汗だくなうえ全身くたくただ。
出発までの1週間は通常の仕事に加え、連日お土産の買い出しや必要な手続きに追われ疲労困憊していた。
荷造りこそ手を付けていなかったものの、寝転んでアイスを食べるだけで過ごしていたわけではないのだ。
その時、ひとりの友人の声が頭に響いた。
話をさかのぼると、タクシーの中でもう間に合わない!と思ったときにパニックになり半泣きで旅行慣れしたブラジルの友人に電話を入れていたのだ。
のんびり暮らしていたくせにいざとなると心細くなりみっともなくうろたえ、
「ねえ、飛行機に乗り遅れたんだけど、空港着いたらいったいどうしたらいいの??」
と相談をしていた。
友人はひとこと、
「泣け」
という簡潔すぎるアドバイスを伝授してくれた。
これを聞いたときは、そんな乗り遅れたって泣くとかしないし、と思っていたのだが、走り回り疲れ果てた上お兄さんのつれない態度も悲しいしでがっくりきてしまい本当に涙が出てきてしまった。
もうこうなったら友人に言われた通り思い切り泣いてやれと大泣きをする。
こんなにわあわあ声をあげて泣いたのは子供の頃以来だ。
私も出るの遅くなっちゃったけど道が混んでなければ間に合う時間だったんだ、とか、言われた11時半にはカウンター着いてたのにひどいとか、ブラジルで私は一人ぼっちだとか、もう関係ないことまで口から出てきてしまう。
もうごねてもどうにもなりそうになかったが、ブラジルでの普段の生活のしんどさも思い出され、どんどん悲しくなってきてしまった。
大泣きしているうちに涙が引っ込まなくなった形だ。
片言でまくしたてながら大声で泣きじゃくる異国の大女をお兄さんは面倒くさそうに無視していたが、他の従業員が寄ってきてくれた。
だいたい5人も6人も従業員がカウンターの中にいて従業員同士談笑などしており、お客の列ができているのにもかかわらず何故お兄さんの窓口ひとつしか開けないのか。
ブラジルでは良くあることだが、この時ばかりはそんなことも本気で腹立たしかった。
実際お兄さんとの初めの窓口での交渉までも実は20分以上待ってからスタートしていた。
その時間がなければ間に合ったのに、、、などと思うとますます泣けてきた。
一部始終を見ていた従業員のひとりがちゃんと話を聞いてくれた。
「あいつがあ~、、、あいつがああ~、、、」
やっと話を聞いてもらえたのが嬉しくてカウンターのお兄さんの険のある態度を言いつけさらに子供のように大泣きする私。
その従業員さんは例のお兄さんの対応は確かにちょっと変なので、あっちに偉い人がいるから直接事情を話したほうがいいと言って助け船を出してくれる。
指を刺された延長線上にいた、責任者と思われるサブリナという年配の女性に近づいて理由を話すと、
「わかった、時間がないから、急いで!」
と一転、あっさり好感触なのであった。
へ?まじ?乗れるの??
あっと言う間の急展開だ。
思わず涙も引っ込んだ。
サブリナさんはさすが責任者、決断も指示も素早い。
搭乗手続きをバタバタと済ませ、テキパキと部下に指示を出しながら私に言う。
「ただし、今から普通に搭乗するのでは間に合わないから、これに乗るのよ!!」
呼ばれた先には制服を着た若いボーイの男の子を後ろに控えた車イス が鎮座していた。
いくらなんでもこんな手ありなんだろうか?
よもやサブリナパイセンの常套手段じゃないだろうな。
かなり戸惑ったが、躊躇している余裕も他の選択肢も私には残されていないのだった。
もう開き直るしかない。
乗り込むと ボーイさんが私の乗った車イスを小走りに後ろから押してくれる。
いきなりの急展開と車イスのスピード感で一気にひゃっほうっと言いたいくらいのテンションになり、写真を取りたい衝動に駆られるがここで浮かれて
あ、写真取ってもいいスカ?
と聞いてすべてを台無しにしないくらいには人生経験を積んできている。
ボーイ君には運の悪いことに一番遠いゲートが搭乗口であったが、機敏なボーイ君の俊足のおかげでかなりの時間短縮で飛行機の搭乗口まで着いた。
余計な仕事を増やしてしまって申し訳なかったので、ボーイ君にたくさんお礼を言って、少ないがなけなしの小銭は全部彼にチップとして渡した。
当然私が一番最後の乗客であった。
こうして私は飛行機に乗り遅れながらも、なんとか次の飛行機に乗れて日本に旅立つことができたのだった。
日本に無事ついてから、友人の勧めでフェイスブックのライフイベントの欄にこう書き足した。
“飛行機乗り遅れを始めました。“
一人の友人のコメントには、
「バカだねボタンが欲しい」
と書いてあった。
たまに何かの操作のはずみでこれが出てくるので何を始めとんじゃ、と我ながら心の底からバカだなあとあの時を思い返している。
今思うといろいろ恐ろしい。
何もかもギリギリ過ぎるし人に余計な迷惑もかけてしまった。
ままならないこともあるが、あれからはお金も時間も以前よりは余裕を持って生きるように心がけている。
6年越しのお話、ここまでお付き合いくださったみなさんご愛読ありがとうございました。
ブラジルで飛行機に乗り遅れる【完】
【予告】
ー次回作、『新・ブラジルで飛行機に乗り遅れる』鋭意執筆中ー
あの乗り遅れ師、伝説のあいつが帰ってきた!
ブラジル国内線リオ行きで、アマゾン行きで、メキシコ帰りのパナマで、、、joEが縦横無尽に乗り遅れまくる!
掲載は8年後!!
合言葉は#NORIOKURE、暗証番号は0906(オクレル)だ!
皆さんどうぞ次回作もお楽しみに!
こんな人間ですが、二つとも足跡だけでもつけていただければ助かります