弟と彼女が出会い、そして別れたいきさつはざっとこういう話だった。
アプリで知り合い話をしているうちにアート系の好みなどもぴったりで話が弾み意気投合した、身長190cmの弟と似合いの180cmの高身長女子であって美人なその彼女と付き合い始めて数か月、だいたい週末ごとにデートし彼は久しぶりの普通の恋愛を謳歌していた。
その彼女がアート系のイベントに自分の作品を出展するのでそれに集中したいからしばらく会えないと言われたのが、今思うと別れるにことになるフラグだった。
イベントまで3週間くらいのものだったので従順なレトリバーくらい物わかりのよい弟は快く了解し、その3週間後のイベントに訪ねる約束をしその日を待った。
当日に彼の家からはかなり遠い場所でやっていたそのイベントに顔を出し、久しぶりに会った愛しい“彼女”と挨拶を交わしていくばくの間は話ができたのだが、他の彼女の家族や友達がやらが現れると急にお互い繋いでいたその手をパッと振り払われた。
すると弟のことを皆に向かって
“彼は私の知り合いです”(ポルトガル語直訳)
と紹介したという。
友人ですらなく、“知人”だ、と。
さすがのノンビリ弟もおかしいと感じながら彼女の“友人”たちや親族が次々と訪れる中忙しそうにしていたのでその場では問い詰めることはしなかった。
そのイベント中ずっとでくの坊のように佇んでいるしかできず、イベント終わりの帰り道ではかろうじて彼女と一緒にいとこたちの車に乗せてもらったものの、その後部座席に彼女と隣合わせでは無く間に他の人を噛まされて座らされるという謎の配置、挙句に、
「これからみんなでショッピングセンターに行くので。」
と、一環としてあくまでちょっとした“知人”として扱われ、そのショッピングセンターへ弟は決して誘われず、会場近くの辺鄙な駅で降ろされてその車の後ろ姿をひとり見送った、と言うのだ。
「俺は彼氏だよ?!」
さすがの温和な弟も憤り、あちらからの何かしらの弁明があるのが筋であろうと待っていたが1週間ほど様子を見るもあちらからは何の連絡も来ない。
しびれを切らし自分から連絡をするとやっと返事が来て、みんなに彼氏が出来たことを報告して無かったから、、、。と、一応彼女からも彼氏と認定されていたことが確認できる言い訳をされたが、みんなに言う言わないは彼女の判断なので別に構わないけれども根本的な問題はそこにはなく、彼女の彼をないがしろにする結構な仕打ちに加えてそれ以降むこうから連絡を寄こさなくなったことからも、今後この交際にあまり前向きではない彼女の真意を察し、それ以上の追及はもうせずにそのまま別れることにした、というのが話のあらましであった。
公園に着くまでの10分くらいの尺で話が終わるというようなことを言っていたが、その後も弟は止まらずかつてない結構な勢いでしゃべり続け、私も彼女の弟に対するあんまりな仕打ちに、
「ひどい」
「知り合い、て。。。友達ですらなく!」
「君と彼女のシートの真ん中に誰かを(笑)」
「みんなでこれからショッピングて、ずいぶん楽しそうだなオイ」
などと我ながら絶妙な合いの手を入れるものだから弟もノってきたようでツリーのそばに辿り着いてもさらに数十分、一向に彼の話に終わりはみえなかった。
弟に彼女ができてから数回弟と私との共通の仲間との会があり、そういう時は他の皆は一向に彼氏のできない私以外(うるせえ)だいたい彼氏や彼女連れで参加してくるのだが、弟の彼女は都合が悪かったり急にドタキャンされたとかで一度もその彼女が姿を現すことは無かった。
なので、彼が変な嘘をつくタイプで無いことはわかっていながら、
弟の妄想が産み出した狂気のイマジナリーガールフレンド笑
として、わざとみんなで囃し立てからかったりしていた。
私は用があって不参加だった直近のその仲間内の会では、私が知るより一足先に彼女と別れた報告がされていた。
これも特にこのブログでは触れていなかったが、1年ほど前にちゃっかり彼女ができていて既に安定の彼女を横に侍らせた状態での“何でも金で解決する山田”から、
だって、イマジナリー恋人でしょw
と再三イジられて、さすがにちょっと傷ついた、と彼は語った。
山田を責めるなかれ、悪気が無くとも山田もまあ無神経だし、弟も傷ついているのだとは思うのだが、弟の話のトーンや運び方にはまるで悲壮感が無いどころかいちいち軽くキレるさまが残念ながら滑稽で、悪いのだが言ってしまえばちょうど良い塩梅で面白い。
悲惨な状況であればあるほど、彼の話はなぜか優しい春風のように人々に自然と穏やかな微笑みを誘ってしまうのだ。
私も例外では無く、申し訳ないとは思いつつ要所要所で笑ってしまったりを挟みながら、せっかくの17年越しジャンボリーを堪能することもせずにずっと立ち話をしていたため足が痛く疲れてきてしまったので、ひと段落ついたと思ったタイミングで近くで座って話さないかと提案してみた。
すると話にはまだ続きがあると言う。
ツリーの傍らは、孤独なあまり正気を失った私が日本のかつての記憶から想像を膨らませて憧れたり怯えていたようなシングルが泣いて謝る恐怖のデートスポット的アツアツカップルたちはそんなに目につかないで、むしろ子供連れの家族の集団などのほうが多くみられるちょっとしたお祭りような雰囲気だった。
弟の話のほうに気がいってしまったのもあって、ガッツリ公園の中まで入って散策をしたりまではしなかったのだが、遠目で見た公園内に流れる水辺そばではディズニーの音楽が鳴り、演出のカラフルなレーザーの光が踊っていてからっと楽しげだった。
もともと代打の代打のその代打くらいである弟と、はなからロマンティックさを求めてここに来たわけでなかったし、17年越しにとりあえずここに来れた達成感はそれなりにあったのでがっつり堪能しに奥の方まで行かずとも、私の気はわりともう済んでいた。
よし、ではクリスマスツリーよりも、この目の前にいる(面白い)弟の話の続きをもっと腰を据えて聞こうじゃないか。
Ⅲにつづく。