ブラジル・日本人サンバダンサーの華麗な日常

ブラジルに住む日本人サンバダンサーの全く華麗ではない日々

家の前で銃撃戦があった話

前回話したように、私は今リオの別宅に来ている。

ここ二年ほどリオのカーニバルには出ていないのだが、せめてチャンピオンパレードくらいは観たいということもあり、カーニバル後はしばらくリオに行く計画をしていた。

 

ホテルなどの手配を事前にせずとも思いたった時にふらっと行けるのが別宅を借りている最大の利点だ。

危険な地域にあるおんぼろアパートとはいえ、ガスコンロ、鍋類、食器類、冷蔵庫、電子レンジ、wifiの線も引いたし果ては常備の食料や調味料まで、生活するのに最低限のものは全て揃えている。何も持って行かなくとも予備のパンツや着替え、アクセサリー類さえ置いてきているので、最悪少しのお金とバスに乗るための身分証明書と家の鍵さえ忘れなければ準備を入念にせずとも身軽に気安くリオまで小旅行ができるのだ。(サンパウローリオ間は飛行機で1時間、バスで6~7時間ほど)

長年の通い生活から電車、バスのルートも、どこに何時までどの店が開いているかなども把握している。

屋根はあるもののここは本当はお外なのかな?と思うくらい暑くて埃っぽいアパートといえども、朝から流れ込む他の部屋のおじさんたちの加齢臭がどんなにえげつなかろうとも、たとえ訪ねて来た友人たちに同情の目を向けられどんなにディスられようとも、ベッドから数歩でシャワーから料理までできるのは自堕落だが考えようによっては快適とも思えるほど慣れた今となっては、間違いなく私には世界一落ち着く場所といえた。

今年のリオのチャンピオンパレードは3月9日の土曜日だったので、2,3日前にリオには行くことを予定していたのだが、サンパウロでカーニバルに出た疲れなどもあってだらだらと数日が過ぎ、結局リオに着いたのは当日の朝となった。

去年の教訓もあったためせめて夜にリオに着くのは避けようとサンパウロから夜行バスに乗り、朝方リオの家に着いたのだった。

リオのチャンピオンパレードは素晴らしく、やっぱりリオはいいなあ~、などとゴキゲンに過ごしていた中、アパートの階下に住む大家のサンドラさんと少し話をする機会があった。

ちょっと立ち話をしようとすると制され、ちょうど今6時だから呪文を唱えながらこれを家の前に撒かなければならないのだ、とビニールに入った褐色の液体を見せて言う。

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それは、以前体調を著しく壊した私をサンドラさんの行きつけの教会に連れていってくれたときに、これをシャワーを浴びる時に悪魔よ去れ!といいながら体に流すのだ、と渡されたのと同じシロモノだった。

私がリオに着くまさに前日の夜10時頃、このアパートのすぐ前の道で銃撃戦が起こったと言うのだ。

そのため、ここにもう悪いものが来ないようにこれから呪文を唱えながらこの道に撒いて回る、ということであった。

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お取り込み中のようだったので、また後で話をしようと言って一旦別れたのちに、階下のサンドラさん宅に呼ばれ夕食をついばみながら詳しい話を聞く。

警察に追われたバンジード(マフィアの一員)がこの道に逃げて来て、マシンガンをぶっぱなしながら向いの家の塀を飛び越えて中にまで侵入したという。

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私の部屋の窓から撮った 向かいの家の写真。その奥にある丘の小ファベーラからバンジードたちが最近降りてきているということだ。

 

反対側から来た警官がマシンガンで応戦し、パパパパパパンと鳴り響くものすごい銃声に驚いたサンドラさんは無邪気に遊んでいた孫娘を抱いてとっさに床に伏せたそうだ。

 

いつもはね、ちょうど娘が孫娘の翌日の学校の為に体操着を洗濯する時間だったの。でもたまたま仕事から帰ってきてその日は疲れて寝てしまっていてね、、、。

 

と、通りに面した庭の奥の洗い場までおいでおいでと案内された。

 

 翌日ね、水を屋上のタンクから引こうと思ってスイッチを上げようとしたら何かに引っかかってうまく上がらないの。おかしいと思ってスイッチの裏を見てみたらね、、、

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スイッチをひょいと持ち上げて裏側をめくると、そこには生々しい銃痕があった。

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 庭のほうに回ってみると、窓の斜め右下にもぽつりと銃痕があり、壁を突き抜けてスイッチの裏側を通り

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さらに銃痕は洗い場を通過し反対側の壁にも穴の痕がある。(銃痕の穴自体はサンドラさんがセメントでひとまず埋めたようだ。)

 

ね?銃の球が洗い場のこのあたりに落ちてたの。警察の放った流れ弾がここに当たってたのよ。この銃痕のルートからしたらもしいつものように私か娘が洗い場に居たら、頭か胸らへんを突き抜けていたはずだったのよ、、、

と、サンドラさんは身震いをした。

その時説明しながらサンドラさんが洗うしぐさをしてかがむと確かに丁度頭のあたり、まっすぐに立った時には丁度胸のあたりの高さのところに銃痕があった。

 

去年よりも状況はもっとひどくなってるんじゃないか。。。 

 

1年前に私が訪れ銃を突き付けられた翌日の昼間、その現場の傍を通っても大丈夫なもんかと恐る恐る外に出た。

こちらにいる時は毎日と言っていいほど通い詰めているパン屋(コンビニほどでは無いが一通り何でも売っているし、軽食も頼める)に行く時に必ず通る道なのだが、サンドラさんが最近その辺りにバンジードが常駐している、と言っていたので警戒したのだ。

だが昼間だし、近所の人たちもいつもと同じようにちらほら通行しているのを確認したので、大丈夫と判断して意を決してその道を通ってみる。

家の角を曲がり、件の道に出るとすぐ後ろの小ファベーラの入り口に何か杖のようなものに寄りかかった人が立っているのが確認できた。

私は乱視なので割と近くまで行かないと人の顔や持ち物などを把握できないのだが、もしかしないでしょうね。。。と思ってさりげなさを装い近くを通り過ぎる時にその人物を横目で見ると、そう、その杖のようなものはやはり、、なのであった。

 

今まで私のリオの家をファベーラの入り口から徒歩五分、と紹介していたのだが、それは巨大ファベーラの入り口までの事で、このような現状の昨今、事実をもって訂正しておかなければなるまい。

ファベーラ(小)の入り口まで30秒、と。

 

それでも、それから去年数回訪れた際にサンドラさんに確認すると、最近はわりと安全で見張りまではいない、と言っていたので少し安心していたのだが、今回また銃撃戦というこれである。しかも家の真ん前で。

実際今回10日ほどこの家で過ごしたが、相変わらず道行く車はハザードを点けて走行しているし、車がむやみに通れないように道の真ん中に廃材のゴミが山積みにされていたり、工事でもないのにポールに縄が張られて車が通りにくくされている道があったりと、未だバンジードの気配は濃厚だ。

夜遅くなってバスを降りて歩いて帰る際、バイクが私の近くまで来て顔を確認し(たように思う)、Uターンしてまたどこかに行く、という不自然な動きをされたことも2度ほどあった。

サンドラさんにあればバンジードじゃないのか?と言うと、そうね、怪しい者がいるとそうやって確認するのよ、近所の人に聞き込みをしてあそこに住んでる子だ、ってわかれば何にもしないから大丈夫よ。

逆に最近はあんなにいた強盗はいなくなったの。バンジードがここら辺を仕切っているおかげでね。

相変わらずのサンドラさんのバンジードへの信頼は感じたが、さすがの彼女も下手したら娘か自分が死んでいたかもしれないということで、痛し痒し、と苦い表情を見せた。

 

私だって他人事ではなく、もし1日早く着いていたら、巻き込まれていた可能性もある。

夕食をとっくに食べ終えて、今月の家賃を支払い、いろいろ雑談をしつつもこれからしようとする話に気を取られ上の空の私だったが、とうとうもういい加減切り出さなければならない。

溜まっていた家賃の領収証を律儀に全部取っておいてくれてそれを持ってきたサンドラさんに向かい、思い切って告げた。

 

 

実は、今月で私はここを引き払うつもりだ。

 

と。

 

そう、私は明日、8年借りていたこの家を去る。