ブラジル・日本人サンバダンサーの華麗な日常

ブラジルに住む日本人サンバダンサーの全く華麗ではない日々

私の彼はバンジード その後

ある日ヤスミンちゃんが例の彼氏を紹介すると言ってきた。

彼がバンジード(ギャング)を仕切るためにバイリ(ここでは貧民街の山の上で開催されるファンキという音楽のフェスタ)にいるので遊びに行こうと言うのだ。

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今で言う黒い交際となるわけだが、その時は何も考えず従った。

ヤスミンは若干女王様気質のきらいがあり、そもそも私にあまり口をはさむ権利は与えられていない。

彼女は決して意地の悪い嫌な人間ではないのだが、ポルトガル語がうまく話せない引け目や世話になっている立場上、

私の方も必要以上にへいこらしてしまう。

彼女は美しく良い仲間に囲まれていて友達でいられることが嬉しいので、つい卑屈に気を回し下僕のように尽くしてしまうのだ。

 

バイリに着くとバーの店先外のテーブル席にギャングスタイルファッションの男たちが固まってビールを飲んでいた。

ここでは誰がバンジードかすぐわかる。

だって、

背中に銃を背負ってるからね。

銃のことに詳しくないのだがルパンや次元が愛用しているようなサイズのものではなく、

マシンガンと言われるようなものか猟師がイノシシを撃つような長めのタイプのそれで、

その一番奥で偉そうにしている小太りの小男が、ヤスミンちゃんのミンミンちゃんだという。

白い肌が少し荒れ気味だが、ぽちゃっとしていて私たちに気が付いて向けた笑顔が意外に幼くかわいいと言えないこともない。

日本人の友達がいることは彼女から聞いていたらしく、じゃーぱー!と言いながら抱きついてくる。

肩越しの銃口が鼻先にひやりと触れるのを感じながらも私も抱きついて挨拶を返す。

 

関係ないが彼女の男の趣味は悪い。

というか、まったく面食いで無い。

昔の旦那さんや彼氏など数人見てきているが、どれも微妙というかあるかなしで言ったらなし、というか、

はっきり言うとブサイクだ、と思う人とばかり付き合う。彼女はおしゃれでかわいいのに。

それでその男たちが誠実なのかと思えば、保毛尾田保毛男(ほもおだほもお)似の彼と付き合っていたときは、彼女と付き合ってるその間に昔の彼女との子供ができて、、、とか、

みのもんたのときは別の若い子と浮気されたとか、そんなんばっかりだ。

ブラジル人にそういう不埒な男性の比率が高いということなのかもしれず、それは彼女だけの問題とも言えないのだが。

 

話を戻すと、彼は彼女や私にはとても優しく接してくれ楽しい時間を過ごしていた。

バンジードとかいっても案外いい奴じゃん。

 

そう思いながら、あ、ビール買ってきまーす、なんて言って近くのビールを売ってる店のカウンターへ行き、

お父さんの店の手伝いをしている10歳くらいの子の手が空くのを待つ。

店は飲み物を買う人で大混雑しており、こんな夜中に子供なのに働いてて偉いな、なんて思いながらぼーとしていると、

横からその子供の首をX字にズダン!と締め上げる者がいる。

 

………奴だ。

 

ヤスミンちゃんのミンミンちゃんはいつの間にかビールを求めて私のすぐ横に来ており、

子供だからか彼に気が付かず少しばかり待たせたのに気を悪くしていきなりその子の首を締め上げたのだ。

子供はびびりすぎて言葉もなくやっと500ミリの缶ビールを2本差し出すと、

彼はお金を払うことも無く強奪していった。

 

ワルや。ホンモンや。。。

 

豹変する態度もキレるまでのスピードも子供といえども100パーで行く容赦のなさも、間違いなく堅気でない人の迫力だ。

大人であれば彼がバンジードであることを認識するや優先してビールを差し出す、もちろん無料で。

それが当然のこととなっていたのであろう。

また席に戻ると楽しげに笑顔を見せるのだが、私はやはりどきどきしてしまった。

私たちには身内扱いなので悪さはしないが、そういうところで生きているひとなんだなあ、ということを目の当たりにしたわけだ。

 

結局ヤスミンちゃんと彼はほんの数か月で別れ、それから間もなく彼は警察によるギャング一掃キャンペーンによって追われる身となった。

別れたのは“彼がヤスミンを悪く扱った”からだそうだ。深くは追及しなかったが暴力をふるわれたとかそんなところだろう。

別れはしたがヤスミンは他に頼る人のいない彼に頼まれて彼の家のケアをしていた。

捕まらないように逃げ回っているので警察に取られたくないものを持っていかれないように見てくれというのだ。

なぜか私も一度、何かの荷物を取りに主のいない彼の家にヤスミンと行ったことがある。

今にして思うと何か事件に巻き込まれる危険性もあったように思うが(でもヤスミンちゃんは危険をいち早く察知し回避するタイプではあるのだが)

例によって私に拒否権はないので、彼の家までのこのことついて行った。

ファベイラの一角のそう広くもきれいでもない家の中はほとんどもぬけの殻で、目についたのは彼がペットとして飼っていたでっかい毒蜘蛛の入った水槽と、英語の教材のDVDの20巻くらいのセット、それだけだった。

 

小さい頃から学校にもろくに行っていないであろう彼の家に残された英語の教材。

他のブラジル人の友達に言ったらそれはきっと盗品だよ、たまたま家にあっただけだよ、と言われたし、その可能性も高いと思う。

だからこれはセンチメンタルな妄想かもしれない。

でもヤスミン曰く、彼はアメリカに憧れていたようだった。

想像もつかなくらい悪いことをきっといっぱいしてきた彼が、

いつか海外に出たいと夢見て、そのために英語の勉強をしようとしてそれだけは警察に持っていかれないように大事に取っておいたのだとしたなら、、、

 

なんだかちょっと悲しい。

 

 

しばらくして彼は捕まり、遠い町の監獄にいると聞いた。

 

 

なんだかちょっとせつない。