ここまでのお話
約50名の日本人のカーニバルツアーの責任者として、演者としてサンパウロのカーニバルに出ることになった2018年。だがほとんど全員分の衣装が当日になっても届かない。出発3時間を切りやっといくつかの衣装が届いたものの、山車に乗る人の頭の飾り9人分が足りず、他の10名超の出場者の衣装も受け取れたのか、時間に間に合ったのかもわからない。もうパレードは始まっている。私のサンバ人生ももはやこれまでとその場で切腹することを決意した―――。
もうパレードは始まっている。
先頭の山車もスタート地点を過ぎてしまった。
本気で終わった。
私完全終了のお知らせだ。
もしこのまま出場したらこっちに住む日本人の界隈で悪い噂がたち、道を歩けば誰かに「アイツよくぬけぬけと人前に出てこられるわね」と後ろ指をさされひそひそと悪口を言われたり、「日本に帰れ!このでくのぼうが!!」と石を投げつけられる。
サンバ教室の生徒さんはみんな辞めてしまい教室は閑古鳥となりごはんも食べられなくなって餓死するか、迫害を受け街を追われチエテ川(ドブのように汚いことで有名)に身を投げることになる。
どうせ遅かれ早かれ私は死ぬので、やっぱり選択肢は切腹、略してセプ、この一択しか道は無い。
(※注:私の生徒さんはそんな人たちじゃありません)
このサンバ人生で、カーニバル会場でビキニ衣装のまま死ねるなんて本望じゃないか。
いよいよ最寄りの観客から何か鋭利なものを奪って切腹する決意を固めたまさにその時。
子供のお手伝いを頼んでいたお母さんのひとりが通りかかり、
「先頭の山車の頭、間に合いました~!!!」
と伝えてくれた。
子供たちも衣装の残りを受け取れ、わりと余裕のある段階で山車に乗れたそうで、アーラの皆さんも無事に到着はしているようだった。
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!
思わず崩れ落ち顔を半分覆い泣き出すと、おちゃめなそのお母さんは私のぶさいくな泣き顔を写真に撮ってグループLINEに投稿した。
ちなみに私は一般的に女子がかわいいとされている寝顔と泣き顔がことにぶさいくだともっぱらの評判だ(普段はかわいい)。
よかった、よかった、本当に良かった。
これでやっと安心してカーニバルに取り組める。
楽しむというよりも安堵のほうが断然大きかったが、とりあえずのテンションは上がった。
とにかくみんなの衣装が届いたのならもうなんでもいい。
そして私達日本人参加者はなんとか無事このカーニバルを終え、私もセプらずに済み、九死に一生を得たのだった。
後で詳細を聞いてみたところ、赤い衣装の頭の飾りが着いた時にもう一番目の山車は動き出していて、スタートラインに入る3分前に受け取ったらしい。
高いところにいるので普通に渡そうとしても届かず、動き出した山車の不安定な状態で下から投げられたものをキャッチして慌てて装着したという。
ツアーの日本人出場者。こう見ると頭の飾りのクオリティも悪くないように見える
アーラの方々が会場に着いたのはやはりパレードがスタートしてからで、メイク会場に来る時間も無かったそうだ。
せっかくの晴れ舞台なのにメイクもちゃんとしてあげられなかったことに今でも胸が痛む。
しかも衣装の首の飾りが届いたのはなんとスタート地点に入る1分前とまさにギリギリだった。
他のブラジル人は首の飾りが間に合わ無いまま出発した人も多かったようだ。
この時の日本人参加者たちと同じアーラの衣装。首の飾りがないまま出場したブラジル人出場者
だがそんなギリギリで私たちの衣装全部が間に合っただなんて、本当に奇跡のような話だ。
優秀な人たちに私たちのスタッフを頼んでいて鬼のような働きをしてくれたから良かったものの、そうじゃなかったら間違いなく先頭の山車の頭の飾りは無いままで、アーラの衣装もパーツが足りずに出発していただろう。
一体チームはどうするつもりだったんだ。
と、思い全体の映像を後で見返してみると、絶対いろいろパーツ足んねえだろ、というような中途半端な衣装や、短パンとタンクトップだけという明らかに衣装が間に合わず土台の服だけで出ているのがまるわかりな集団までがパレードにいくつか参加していたりして、
ありえない、、本当にだめだこりゃ、、、
と、このチームのこの年の仕切りの悪さと混乱ぶりを改めて目の当たりにすることになった。
結果、もちろんチームは最下位になり、下のグループカテゴリーへの降格が決まった。
書いている間あの時の気持ちを思い出して熱いものがこみ上げ、ちょっぴり泣いてしまった。
もうこんな目に遭うのは二度とごめんだし今思い出してもゾッとするが、でもカーニバルにはわりとこういうようなことが多いのも事実だ。
それは衣装についてだけの話じゃなくて、いろいろなタイプの謎の苦労や裏切りがある。
その分、思いもしないところで運が味方してくれたり、誰かに助けてもらったりすることもある。
そして、だからこそ感動もひとしおだったりするところがあるのがタチが悪い。
たぶん、整然としていてきちんとなんでもスムーズにいってしまったら、それはカーニバルではないのだ。
いっつも何も起こらないでくれ、もう勘弁してくれ、と本当に心の底から思うのだけど。
信じられないような混沌の中、あり得ないことの連続で、毎年思いもかけないことが起こり、そしてそこにいろんなドラマが生まれる。
だからこそ、カーニバルはよりその輝きを増す。
とか、良い感じに書いたけど、やっぱり本当にもう二度とこんな目に遭いたくはない。
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