お目当ての地元の病院に予約を打診すると、新規の上急ぎだと予約がすぐに取れないので、長時間待つことを覚悟して直接診療に行ったほうが話が早かろうと電話でアドバイスをいただけた。
翌日朝9時前に病院に到着したものの、受付にはすでに長蛇の列ができていた。
どいつもこいつも病人か。千葉で人気のこだわりつけ麺屋か。
さらに整形外科の待合室にも座れないくらい人で溢れかえっている。予約の人が優先という話なのでこれはもう腰を据えて待つしかない。
昼も過ぎ、午前の診察が終わりかけて待合室にいる人もまばらになった頃、やっと名前が呼ばれた。
どういう経緯で膝が痛くなったのかという問診の際にできるだけ詳細を語ろうとするも、その担当の先生は私の話が長くなりそうになると要点だけ話せと言わんばかりにイライラと遮った。
キミは長年連れ添った私の夫か。
その上僕は再生医療の専門じゃないので、専門の先生の日にまた来い、と言う。
待った甲斐もなにもありゃしない。
だがそこで、私の治療の選択肢は、今までと同じ1.保存療法、2.損傷した半月板ごと取ってしまう手術、3.再生医療の3つがある、と説明してくれた。
半月板なんてものは損傷している人は世の中にたくさんいて、ただ痛みを感じるかどうかは多分にその人による。何かの拍子に損傷した半月板が変なところに挟まったりすると痛んだり動かなくなったりするので、手術で取ってしまえば痛みは無くなるものらしい。また、自然に半月板の位置が勝手にずれて痛みが無くなるというケースもあるそうだ。そもそも全然痛くなくて半月板がなくなったことに気が付かずそのまま難なく動かし続けられる人も結構いるのだという。
しかも、なぜブラジルや他の国に膝のヒアルロン酸治療が広まらないのかと言えば、この治療は確かに一定の効果があるものなのだが、日本発祥の治療が世界中に広まっても某国の利益には1ドルたりとも繋がらないため、某国はせっせと“膝のヒアルロン酸治療には効果が無い”という論文を書いて潰しにかかってきているそうだ。
良く聞くような話だがやはりというか。恐るべし、※国。
私の夫先生は人の話を聞けないが頭はなかなか良いようで、話は分かりやすく業界裏話も興味深かった。
保存療法では今と変わらないし、手術をすると3か月は激しい運動はできず、将来的に変形性膝関節症という膝の病気になる可能性が高くなる。ここでできる再生医療は注射一本の一回こっきりで、長い休養期間も必要ない。
やはりその治療に賭けたい。専門の先生に話だけでも聞いてみたい。
そんなわけで翌日またその病院を訪れた。
以前その病院で務めていた友人から“膝名医”と私も聞き及んでいたベテラン先生は、柔和でとてもフランクな方だった。
だがその先生も、関わってはいるが膝の再生医療専門ドストライクでは無いという。
確かに事前にチェックしていたHPでは、ド専門と紹介されていた先生は若くて綺麗な女の先生だった。
だがその先生は現在お盆休みなので週明け以降でないと診療できないという。がくり。
どうしよう。
もうブラジル行きはその週末に控えていた。
『この治療、効くか効かないかはなんとも言えないんだよ。最先端医療でそこまでデータも無いし。保険効かないからすっごい高いしね。今うちでできる治療は20万円のAPS療法ってやつで、PRPより濃いからもっと効くはずなんだけど、確実に治るかまではわからないんだよね。。。え?高いからまけてくれって?いや~、うちはね、精製キッドを自分の病院で作って無いから他のとこから買わないといけないのよ、それが25万。ね、全然病院の利益になってないの。それで自院キッドを使ってもっと安くやってる先生にいつも謝られるんだよね~、こんなに安くやってしまってすいませんって。』
病院で値切ったことをうっかり自らバラしてしまう形になったが、まあよい。
安くやっている病院とは私が予約をしようとして断念した行列のできる大学病院のことであった。
私の調べた範囲では、いろいろ製法や回数の違いなどはあるが、安いところでひと注射3~6万、高くて30万~だった。そんな10倍も値段が違うことなんてあるかいと高いところは地獄の悪徳病院と決めつけていたのだが、それぞれの病院で事情が違うのだということがわかる。
でもやはり高い。
確実に効くならともかく,効くか効かないかもわからない一回の注射だけで20万もするなんてあんまりだ。
20万あれば、うまい棒を2万本買える。
独自の“うまい棒算”を用いてすべての価値を計ろうとするのは、私の子供の頃からの悪い癖だった。
結局、悩んでも決心がつかず、
『じゃあ、もっと考えてやっぱり治療をやらないってなってもいいから、決心がついたらすぐ治療ができるよう準備はしておきましょうか』
と膝名医先生も言ってくださったので、さらに翌日治療に必須である事前の血液検査を行い、専門の先生もいる10日後に注射を打つ、と一応の日程を決めて帰った。
その治療を受けるためにブラジルに戻る日程を2週間ほど急遽ずらしたものの(飛行機の延期料を追加徴収されたが致し方ない)、さらにいろいろ情報を集めてみると、人や症状によっては全然効果が無いという話などもかなり耳にして弱気になり、なんか私には効かないかも、、、としょぼくれた。
2万本のうまい棒をドブに捨てることになるのもためらわれ、次第に再生医療への意欲は薄れて行った。
並行して進めていたヒアルロン酸治療やオステオパシーという治療をこの二週間続け、それで良くなる可能性に賭けよう、という方針に徐々に転換していったのだった。