カーニバル前にはここ数年、リオの地元のブロコ(道でやるパレード)でハイーニャをやらせていただいている。
ハイーニャというのは=女王という意味で、ここではサンバチームの楽器隊の前に置かれる女性のことを差す。近年リオのカーニバルの大きいグループではモデルや女優さんなどの有名人がなっていることが多い誉(ほまれ)ある役職だ。
そんなに商業化していない小さい街のブロコなどでは、そういう時は踊れるパスィスタ(カーニバルのチームの中ではビキニと羽ぽい衣装をつけてサンバをガツガツ踊るグループの一員)に話が回ってきたりすることもある。
サンバのブロコと言ってもサンバ会場でのような衣装を着ける訳ではなく、参加者はお揃いのTシャツ、ハイーニャはショー衣装っぽいワンピースなどで踊る。
私は日本でサンバをやっていた頃から、そういう華やかな地位には無縁の、床を舐め地底を這いつくばるようなサンバ人生を送ってきておるので、リオの自分の家のほうの地域で行われる1500人ほどの小さいお祭りとはいえ、日本人である私をその地位に何年も就かせてくれているのをとても光栄に思っている。
あれ?なんか話の流れがいつもと違うぞ?もしかしてこいつ少しキラキラしようとしてるんじゃないだろうな?
と思われた方、
正解です。
いいじゃんいいじゃんいいじゃんいいじゃん、たまにはキラキラ報告とかさせてもらったっていいじゃん。
どうせ私のオンボロ靴底サンバ人生ももうそう長くはない。
もう親指のところは穴が開いているし、履きつぶしたかかとも減っていて留め具も壊れているようなありさまだ。
それにこのブログを読んで私を架空のお笑いサンバダンサーだと思っている方たちに向け警鐘を鳴らしたい。
私はブラジルのサンバ界に生息する実在の生き物だ。
だが絶滅危惧種なのでみんなで 大事に守ってあげなければならない。
滅びる定めの死にかけ寸前の生物で、たぶんもうすぐしぬ。
膝は割れて常に水が噴き出しているし、片目は大抵爆発していてお腹から腸がはみ出ているようなありさまだ。
ごめん、なんか言い過ぎた。
だがせめてもの思い出のよすがに、キラキラしている部分もたまには書かせて欲しい。
私だってあなたたちの知らないところでごく稀にだがキラキラしていたりすることもあるのだ。
いつも私がオカマに軟禁されたり、不動産のおやじにセクハラされていると思ったら大間違いだ。(というかだいたい合ってる。これらも事実なので、今後書く。)
そもそもの馴れ初めは、以前私がいたサンバチームの人がそのブロコの会長をやっていたことから、そこで見染められ?初めて声をかけてもらった2012年のことだ。
最近私が他のチームでカーニバルに出ることになっても変わらずに私を呼んでくれていて、本当に有難い話である。
だが、当時は彼の娘も同じチームで一番の踊り手としていたので、いやいや、私なんかよりも彼女にやってもらったらいいじゃん、と断ったのだが、その彼女がぜひお願いしたいと説得に来てくれたので、そこまで言ってくれるのだったらありがたくお受けしよう、ということになった。
彼女はチームの中で一番目立っていて、踊りが上手くてスタイルが良い、一見とっつきにくそうなタレ目の意地悪顔美人で、いつもニコニコしているようなタイプではないがチームでも私が仲間に馴染めるように助けてくれたり、他の人たちにもまっとうで正しいことを言う実はかなり性格の良いやつだったので周りから好かれ、また、皆に一目置かれていた。
その大好きな娘や前のチームの友達、知り合いなどがたくさん手伝いに来たり遊びに来ていたりするので、私も楽しい。
私の好物である子供たちも多いので、一緒に話したり遊んで可愛がったり、頭をなでてその若さを吸い取ったりもできる。
それにしても開始時間を誰も知らないのは一体どういうことだ。
何時に行けばいいのだ?と今年も聞いてみたが、13時に来い、と言うので、嘘つけ、と思い例年の教訓から14時半ごろに行ってやった。
ここでの祭りは広場でそのくらいの時間からぼちぼち始まっていて、生バンドが入って歌ったり踊ったり、参加者は入場料代わりのTシャツを事前に買っておいてプラスチックのジョッキをもらい、それを持っていれば水やビールなどはフリーで飲み放題というシステムになっている。
だが、メインとなるブロコのパレードは通常だいたい17時~18時くらいから始まる。
私はその時に綺麗に着飾って、じゃじゃーんと現れて楽器隊の前に立ち、そのブロコの女王様として悠然と踊るという算段だ。
知ってるなら始めから時間を尋ねるなよ、という話だが、私に開始時間を聞いてくる人も多いので、ちょっと対処に困ってしまうから聞いたまでである。
人込みの中、やっと着いても誰もそんなに大事にしてくれない。
飲み物なども用意してくれず、事前にその祭りの中に入れるためのチームTシャツなども渡してくれてはいないので入り口で必ずもめる。
日本人が誰も住んでいないような郊外の街のお祭りにいきなりやってきて、私はここの女王だから中に入れろ、とカタコトのポルトガル語で話してみても、気のふれた外国人が無料で中に入ろうとしている、と門前払いにしたくなる気持ちもわかる。
飲み物をくれ、と言ってみてもフリードリンク用のジョッキを持ってないのでダメ、とあっさり言われ会場外の売店まで人込みをかき分け買いに行ったりしなければならないという好待遇だ。
それに、他の人たちはラフなTシャツ姿で、飲んで踊ってバカ騒ぎをするために来ているので良いのだが、これから私は楽器隊の前に出て踊るので他の人たちと同じように遊んで飲んだくれているわけにはいかない。
控室など用意されているはずもない広場で着替えなども済まさねばならず、干からびたトカゲの死骸の上の地べたに持参の敷物をひいた隅っこで照り付ける太陽の下、汗だくになり化粧や着替えをコソコソと行いながら何時間か待機していなければならないのだ。
荷物なども誰も預かってくれず一度そのまま放置して出なければならなかった年もあった。(荷物は無事だったが)
今年は音響を積んだ小型トラックの人が知り合いだったので、とにかく頼むと荷物を押し付けて、やっと本番に臨めたのだ。
団地の脇にある広場から出発し、小道を通り大通り沿いの公園まで約1キロほどの距離を1時間半ほどかけてパレードするのであるが、チームのTシャツを着てパレードについてきている人たちが入れ替わり立ち替わり楽器隊の前で踊ろうと、楽器隊とその他を仕切るロープをくぐって入ってきてしまうので、私の踊るスペースが無い。
押されて転びそうになり仕方なく楽器隊の中に入っていくと、あんたは前で踊れ、とスタッフの人に怒られる。
ロープの中から出て行け、と会長が傍までやってきて注意してくれるのだが、彼がいなくなるとまたみんなロープの中に入ってきてしまう。
みんな盛り上がって楽しそうで良かったなあ~^^
などとは思えない狭量な人間であるので(ちょっとならいいんだけどね)、ち、邪魔だぜ、と心の中では思っていた。
しかし女王が鬼のような形相で周りの参加者を蹴散らしたり、お前らはこのロープの中に入ってくるな!このクソ庶民どもが!!と悪態を吐き捨てたりするのは絶対に良くないと堪えて笑顔をつくっていたのだが、高いヒールを履き凸凹の多い道で踊りにくい上、あまりの扱いの悪さにイラっとして、ひとりの偉そうなスタッフにもっと前に行けと押されたときに「こんな状況でどう前で踊れっていうのよ!!」と1度だけキレてしまった。女王なのに。
最後の公園に着くとさらに人は増えもうお祭り騒ぎで、ビールをかけられ、もみくちゃにされ、私の場所確保なんてさらに誰も気にしてくれない。女王なのに。
結局最後は楽器隊がサンバではない楽曲なども演奏し始め、ひょっこり遊びに来ていた同じサンバチームで以前のメストレサラ(チームの象徴の旗を紹介するカーニバルで重要なポジション)だった子なんかも、ただのお兄ちゃんと化してはしゃぎ回り正規のヴォーカルからマイクを奪い、カラオケ同然で熱唱し始めたりと皆めちゃくちゃに盛り上がった混乱を経て、日が暮れきって終わりを告げた。
お疲れ様、と皆に声をかけてもらえ、胴上げをされて皆で涙を流したりするわけでもなく、私(女王なのに)は終わったらそのまま放置されるので、自分で荷物を取りに行き、自分でビールを買い、そこで適当に飲んで、自分で車を手配して、帰る。
ちなみにきっぱりとノーギャラだ。
あんまり感謝してくれてる感じもしないが、毎年向こうから声をかけて来てくれるので、かなり気に入ってくれているのだろうとは思う。
他の子とダブル・ハイーニャとされた年もあったが、私の評判が良いので来年は彼女は切るから君はどうか続けて欲しい、と言われたこともある。
というか、2度とその子たちがハイーニャで来ないのは、このブロコのこの扱いのせいなのでは、、、?
入口で相手にしてもらえず、おとといきやがれジャップと言われブチギレる女王。
トイレが混んでいて入れないので、近くの売店で70円渡してトイレを借りる女王。
雑な扱いを受け、あんまり民衆に敬われていない感じの女王。
フウーッ。女王というのもなかなか大変なものだ。
あれ?
キラキラ報告をしようと思ったのに、なにかおかしなことになってはいまいか。
そう、頑張ってキラキラしようとしても、どうしても私の場合結局こういったとんちきな報告になってしまうのだ。
ん?また話が違ってきたぞ。こいつ、全然キラキラしてねーじゃねーか、
と思われた方。
正解。