しょっぱなから剣呑な題名で申し訳ない。
寒い日が続き、オリンピックの閉会式の疲れなどもあって洗濯物が溜まってしまっていたので、奥の手で大家サンドラさんの洗濯機をお借りする計画を目論んだ。
天気の良い日ならまだ良いのだが、洗濯物がたくさんあると脱水までオール手洗いのため絞るときに力が入りすぎて親指と人差し指の間の水掻き部分の皮がむけてしまったりすることがあるからだ。
あさってから非常に珍しく日本から友人が泊まりに来ることもあって、おんぼろ宿と言ってもちょっとした厚手の毛布なども洗っておもてなしに備えたいと考えた。
しょっちゅうだと迷惑なので日ごろはほとんど手洗いで済ますが、体調が悪い時や悪天候が続いた時などには以前から洗濯機を借りられる夢のフリーパスを既にゲットしていた。
家賃の支払いがてら1階にあるサンドラさんの家を訪ねると、最近洗濯機の扉が壊れてしまい動かなくなってしまっているので貸せないと、家に呼び込まれ現物を見せてもらった。
ちぇっ。
仕方がないので洗濯機をお借りすることは諦め、家賃の領収書を受け取る間に居間のソファに座れと勧められたので世間話をする。
サンドラさんは私の隣の部屋に住むハム子のことは決して自分の家に上げないが、私のことはちょいちょい招き入れてくれる。これもひとえに日ごろから真面目に生きている私の人徳と言えよう。
そういえばと干していたブラジャーが失くなっていた話をすると、
またあの子(ハム子)にやられたわね!
と何かをつかみ取るようなゼスチャーをしながら0.3秒ほどで結論を出した。
そしてまた彼女のパクリ癖・虚言癖がいかにひどいかについて語り出す。
隣人夫妻がここに住み出した頃、隣駅の薬局で職を得、夫は品出しなど、ハム子はレジ打ちの仕事に就いた。
何日か経ったある日、ハム子のレジから1800レアル(当時9万円ほど)のお金が無くなり大騒ぎとなったそうだ。
当時の最低賃金の倍を超えるくらいなので、こちらでこの金額はかなりの大金だ。
証拠は出なかったものの真っ先に疑われ、それなのにハム子が警察に行くのを頑なに拒んだため夫とともに即首を切られた。
いくら無実ならちゃんと警察に行けって言ってもきかないのよ!?そんなのおかしいでしょ?とサンドラさんは語る。
Como atender a estratégia de marketing no merchandising farmacêutico - Revista da Farmáciaより引用
また、ここに住む前その夫妻は近所のファベーラ(貧民街)に住んでいたのだが、そこで3000レアル(当時15万円相当)分の大量の服をそのファベーラの卸の業者から後払いのローンで支払う約束で買った。
だが彼女は品物だけを受け取り、催促しても何か月もお金を払わず、あまつさえもう着たおした服を返すからそれでチャラにしろ、と言ってのけたらしい。
そこで怒ったその卸の人がギャングに頼みハム子を拉致監禁し殺すと脅し、それをハム子からの電話で聞いた旦那さんがほうぼうに借金をして慌てて迎えに行ったこともあるそうだ。
迎えに行ったときはファベーラの一室に閉じ込められ後ろ手で縛られ髪をざんばらに切られた姿で泣きじゃくっていたという。
ところで髪を切ったり刈ったりするのはブラジルのギャングの、女の人に対する見せしめとしてはポピュラーな手段だと現地の友人に聞いたことがあったので、それからというもの坊主の女の人を見ると、もしやあの人も、、、?とドキドキしてしまうようになっている。
ギャングはそういうことを一度でもする奴はまたやるからと決して許さない。
そういう理由でそのファベーラに住み続けることはできなくなり、近所に住むハム子の母親が部屋を用意してくれとサンドラさんに頼み込んだ結果、ここへ引っ越してくることになったそうだ。
そんな目に遭っても懲りない女、ハム子。
聞けば近所中からお金を借りまくり、未遂に終わったものの中2階に住む年の差カップルの夫にもつい最近100レアル貸せと言ってきたそうだ。
彼はいい奴なのだがなかなかに女癖が悪く、奥さんが不在のときにおねえちゃんをたびたび連れ込んだりしているので(私も早朝に派手めの女の子がするりと彼の家から出ていくところを目撃したことがある)何の関係も無いのに100レアルも借金に来るわけがない!さては、、、!?とその妻とサンドラさんとで疑いをかけ問い詰めたらしい。
日ごろの悪い行いのせいで強くは出られない彼でも、
あれだけは絶対に無い!僕にだって好みってものがあるよ!と必死に反論していたとサンドラさんはきしし、と笑った。
さらに彼女には虚言壁もあるようだ。
近くに住む住人が悪いことをして警察官に殺されたというのをハム子から聞いたので、たまたまその後に会った近所に住むハム子の父親に、そういえばそこで事件があったっみたいだけど、どうなっているのかしらと聞いてみたという。
ところがそれは犯罪に関することでもなくちょっとした小競り合いで足を軽く刃物で切ったとかそういったたわいもない話で、
近所の人が悪いことをして殺されたなんて、よくもそんなひどい噂を流す奴がいるな!そんな奴は俺がぶん殴ってやる!!
と激高され、
それはあなたの娘さんですよ、
とは言えず黙っていたという。
さらには現在刑務所で暮らしているハム子兄の元彼女が今でも毎週のように刑務所に訪ねているとでっちあげの噂を流し、それを聞きつけた今はもう他のギャングの情婦となっている元兄彼女が怒り狂って彼女の家を訪ねて来て流血の大乱闘を繰り広げたこともあるという。
そのキャットファイト現場に居合わせたサンドラさん曰く、仲間を引き連れた元カノ陣営と3対1の不利な状況にも関わらず、負けじと彼女も自分の体格を利用した重量感のあるパンチを何度も顔面にヒットさせ応戦し、なかなかのファイターぶりであったという。
ブラジルの刑務所では月に1度犯罪者の奥さんや恋人との性交渉を認めるという世にも珍しい制度がある。
http://www.nikkeyshimbun.jp/2005/051209-32brasil.html
なので、元彼女がそこに通っているということは、刑務所にいてもその兄と関係があることを意味しており、今のマフィアの彼氏に浮気と疑われれば下手したら彼女の命に関わるほどの大問題なのであった。
マフィアの彼女や奥さんが浮気をして殺されたなどという事件はここではよくあることだそうだ。
ハム子をボコボコにした後で、今度どこかで会ったら必ず殺す、と言い捨てて元カノは去っていったらしい。
実際そういう世界の人は恨みがあれば私たちには考えられないくらいライトな感覚で人を殺すようなので、ハム子もあんまり変な噂話をしないようにしたほうが良いと思う。
そういえばそうそう、とサンドラさんから隣人の夫から今朝送られてきたばかりだという画像を見せられた。
二つ離れた駅に住む女性が行方不明になっていたが、今朝私の住む町で遺体になって見つかったという。
スポーツジム用のレギンスを着用していたという情報と、発見直後に撮られただろうその写真ではどこにでもありそうな狭い路地裏で、毛布をかけてはあったがそこからはみ出した手足や脱げて散らばっているビーチサンダルから見ても、どうやら若い女の人のようだとサンドラさんは言った。
そういった見慣れていない生々しい画像をふいに見せられてしまいとてもショックで、脳裏に焼き付いて今も離れない。
その彼女が何をしたのかはわからないが、ラフな格好で金目の物を持っていたとも思えないので、先ほど話をしていたように何かマフィアに恨みを買ってしまっていてたまたま見つかって殺されてしまった、ということかもしれないと言う。
近所で他殺死体が見つかったというだけでも恐ろしいのに、サンドラさんの話は刺激的すぎる。
ブラジル怖いよう。
マフィアだって裏切ったやつや悪いことをした人に対してだけそういうことをする訳で、誰でもむやみに殺すということはしないので変なことをしない限り大丈夫だというが、サンドラさんのこのマフィアに対する絶大な信頼は一体何なのであろう。
それにしても、今回は怖い話になってしまった。
あんまり良い子じゃないとはいえ隣人の死体など見たくないので、ハム子は心を入れ替えてくれぐれも気を付けて暮らして欲しいと思う。
お手数ですが、二つとも足跡だけでもつけていただければ助かります