ブラジル・日本人サンバダンサーの華麗な日常

ブラジルに住む日本人サンバダンサーの全く華麗ではない日々

日本人サンバダンサーはリオ五輪代表メンバー?

リオ・デ・ジャネイロ五輪真っ只中、サンバダンサーの友達の住むリオのセウ・アズー(青い空)というファベーラ(貧民街)での、そのさらに友達の誕生日パーティーになぜか私も招待された。

その後にそのファベーラでのパゴージのライブ(サンバの生バンドのフェスタ)もあるということで、そこにも行こうと言う。

彼女は全然別のチーム所属の子で出会って1年ほどではあるが、面倒見が良く頼れる感じでいろんなイベントに誘ってくれるのが有り難いので、せっかくなのでちょっくら顔を出してみることにした。

その日はある練習の会でたまたま彼女と会う予定だったので、その後そのまま彼女と落ち合って電車に乗る。

前日に、誕生日パーティーに参加するのだったら何か綺麗な恰好を用意していったほうがいいかな?と日本人らしい気遣いで彼女に尋ねると、明日はスニーカーにレギンスにTシャツなどのスポーティーな装いで来いと指定された。

練習もあるし、気張らずにそのままの恰好でいいよということなのかな?と理解し、着替えなどは特に持たずに家を出た。

 

誕生日会場は、ファベーラの入り口の公園を利用して開催されていた。

招待されていたが行けなかった5月にあった彼女の誕生日パーティーもこの公園で行われたという。

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暗く写りが悪いのでわかりにくいが、鉄棒なども設置されていて普段はれっきとした皆の憩いの場の公園のようだが、

今日は誕生日パーティーのためにちゃんと凝った装飾がなされたりしている。なにか近所のイベントがあるといつもここでやるということだった。

 

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彼女のお母さんや友達、誕生日の主役の家族やいろいろな人に紹介される。

みんなとても歓迎してくれ、ファベーラに珍しい日本人に皆興味深々で、やたらに写真を一緒に撮ったりして盛り上がった。

 

今日はさらに他の友達の誕生日もバッティングしているので、そこにも顔を出そうと言う。

 

それはファベーラの狭い道を潜り抜けたさらに奥のほうで行われていた。

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狭い。

 

家と家との通路を利用した隙間で開催されているのでウナギの寝床のような細長い8畳ほどのスペースなのだが、肉を焼くコンロやDJブースもちゃんと用意されていて、みんなもみくちゃのなか滅茶苦茶に盛り上がっている。

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みんなビールを飲め飲め踊れ歌えと次々に話かけてくる。

調子に乗って一緒にファベーラ仕込みのファンキ(という、上品な人は聴かないタイプのジャンルの音楽・踊り)芸を披露していると、歓声が上がりさらに皆盛り上がる。

 

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やっぱりここでも外国人に興味深々な子供たちに写真を一緒に撮ってくれとせがんでこられた。かわいいったらありゃしないので、もちろん応じる。

 

それにしても老若男女問わずここに来てからやけに写真を求められると思っていた。

私を連れてきた友達の他の人との会話を注意深く聞いてみると、私は、

 

オリンピックの日本代表として来たバレーボール選手である、

 

と、説明されていた。

 

ちょ、ちょっと待って欲しい。

私はしがないブラジル在住日本人サンバダンサーだ。

日本のオリンピック代表選手でも何でもない。

それに本物の日本人選手ならたぶんあんまりポルトガル語を知りはしまい。

そして恐らくサンバもファンキも踊ったことは無い。

だいたい試合を控えた日本の代表選手がファベーラでこんな時間まで飲んだくれている訳がないじゃないか。

 

『ブラジルしかチェックしてなかったけど、日本のバレーの試合、TVで見るね!』

『頑張って!』

『明日は試合は無いの?!』

 

と応援される。

 

知らんがな。

 

戸惑う私を尻目に

しー、と、人差し指を鼻先に立てながら、

あなたはここでは日本代表のセレブよ!ほら、みんな写真を求めてくる!!

と、友は微笑んでウインクしてくる。

 鼻高々で満足している、というふうに非常にごきげんである。

 

前日にスポーティーな恰好で来いと言われていた記憶とそれが不意につながった。

 

 

友よ。

今どきちょっと調べれば一発でばれるような、

何故そんなしょーもないウソをついて見栄を張るのだ、

おゝ友よ。。。

 

前日のスポーティー服装指定からして、少なくとも前の日から私をオリンピック代表日本人選手として皆に紹介するつもりだったのだろう。

ブラジル人の多くは、先のことをあまり考えないくせしてこういったところはやけに機転が利いて用意周到だったりする。

図らずも、膝が痛いのでしていたサポーターが彼女のホラを増長するようにバレーボール選手ぽさを醸し出してしまっている。

私がブラジル人が想像する日本人よりもかなり背が高いことも彼女のホラを信憑性のあるものとする助けになっているのだろう。

 

仕方がないので彼女の顔を立てるためにもうやけっぱちで、

『そうよ、私は日本代表のバレーボール選手なの!だからほら、日本人にしたらとっても背が高いでしょ?』

『うん、応援してね!』

『明日は試合は無いからここに来られたの。あさっては試合あるから見てね!!』

 

などとデタラメな嘘をつかなければならず、非常に心が痛んだ。

 

 

心が痛んだので家に帰って日本の試合の日をチェックすると、まんまと翌日の午前中に日本代表の試合が組み込まれていた。

そんな選手が前日の夜中までファベーラでサンバやファンキを踊り狂い飲んだくれる訳など絶対にない。

 

でも、彼女の顔を立てなければならず、子供たちの純粋な瞳を裏切りたくはないので一度ついたウソは貫き通さねばならない。

どうかもし、私と撮った写真を見せられた方がいたら、彼女は日本代表の選手だけど、この帰り道にバナナの皮ですべって転んで怪我をしてしまい、残念ながら試合に出られなかったのだとか告げて欲しい。

 

ほんと、すみません。

 

次にまた彼女の住むファベイラに訪れたときは、いったい何と言ったら良いのだろう。

 

多分、これはきっと彼らの遊びみたいなもので、わかってのっているか、

もし信じた人がいたとしてもみんなそんなことはすぐ忘れてしまうはずで、多分、大丈夫なのだとは思うのだが。

 

 

 多分。

 

ああ。

 

 

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