ブラジル・日本人サンバダンサーの華麗な日常

ブラジルに住む日本人サンバダンサーの全く華麗ではない日々

サンパウロの部屋探し完結編

サンパウロで住む部屋を探し始めて早3か月。

もうどうにも後がなくなってきた。

私はマイコンと呼ばれていたその時代から、コンピューター関係にかなり出遅れるタイプの人間であったので、サイトの見方を習得するまでにも結構な時間を要さなけらばならない。

それでもなんとか有料会員となっていたメインのサイト以外のものも見て探してはいたので、恐る恐る他のサイトから部屋を見に行きたい旨のメールを送ってみた。

自分の希望にそぐわない場所や家賃のもの、部屋の写真や詳細が記していないものはこれまでは排除していたのだが、もうそうも言っていられなくなっていた。

半ばヤケ気味にラストスパートをかけ、飲み屋のように毎日部屋探しのはしごをしてはがっかりしていた時に、運命の君(ひと)に出会ったのだ。

その部屋の広告はとてもシンプルで、家賃と大まかな場所以外全く何も記載されていなかったが、ものは試しと連絡を試み、部屋を見せてもらう日取りを決めた。

たぶんその日は大安吉日だったのであろう。

平日の真昼間にその家を訪ねると、大家だという品とスタイルの異様に良い妙齢のおじお兄さんが出迎えてくれた。

 

ちっ。男か。

 

何度も言うが、私の第一希望の家は男子禁断の園、女子オンリー、パジャマパーティーの家である。

たとえ私に寝るときにパジャマを着る習慣はないとしても、この夢だけは譲れない。

しかしそのレオというブラジル人男性は大家だということで案内に来てくれただけで、ここに住んでいないという可能性もある。

わずかな希望にすがりついた瞬間、

奥からのそのそと出てきたのはさらに男子が2名。

ここに部屋を借りて住んでいるメキシコ人のセバスチャン、そして大家さんのレオの友人だという若いブラジル青年のファビオ。

 

あーあー。

 

知らん異性の人達と住むなんざまっぴら君です。

と気の弱い私はその場で言うことができなかった。

 

何か飲む?ジュース?水?コーヒー?

みんなでにこにこと出迎えてくれて、やけにフレンドリーだ。

今まで訪ねた家は立ち話がほとんどで、他の住人はいても挨拶を交わすくらいでさっさと立ち去るのがふつうであったし、飲み物などを勧めてきてくれるところなど皆無であった。

住人全員で歓待してくれて話をするなどということは初めてであった。

何故平日の昼間にいい年をした男たちが家にいるのかという疑問は胸によぎったが、

みんな友達を迎え入れるかのように楽しそうにしている。

良かったら座って話でもしようと椅子を勧めてもきてくれた。

連日の部屋探しでは話をしようと言ってきても私への興味などではなく、家賃が本当に払えるのかを値踏みしてくる匂いが香ばしく漂ってきたり、なにか取り繕う感じの笑顔がやるせなかったりした。

住人が男子ばかりであったのでもうここに用は無く、ちゃっちゃと適当に部屋を見てさっさと帰ろうと思ったのだが、多少緊張している私を気遣っておどけて見せたりするレオたちの歓待ぶりが心地よく、少し話をして家の中も私の住む用の部屋も一通りきちんと見せてもらうことにした。

みんなで話をした居間は広々としており、調度品なども新しくは無いがおしなべて趣味が良い。

私が住むことになると案内された部屋は今まで住んでいた広さが取り柄の某会館の部屋よりは若干狭いが、ウォークインクローゼットというのだろうか、収納スペースがふんだんにありすっきりしているところに天井も高く窓も大きく開放感がある。

さらにセミダブルのベッドつきと、今まで見た中で一番理想に近い部屋だった。

 

そして、実は私は彼らと話しをしているうちにひとつ確信したことがあったのだ。

全員いる前で聞くのもちょっとどうかと思ったので、部屋を見る間にレオと二人だけになったとき勇気を出して聞いてみた。

 

ねえ、あなたたちって、ゲイだよね?

 

うん。そうだよ。

ファビオは僕の恋人さ。

 

やっぱし。

 

誰もしぐさが女性っぽかったとか、おネエ言葉でしゃべっていたとかではない。

私はそっちの組合の友人が多く、特にブラジルのサンバダンサー界には死ぬほど多いので長年の鍛錬の結果、そっち方面に関し著しく目が肥えてしまっている。

種を蒔いた日から日々成長する麻を飛び越えているうち驚異の跳躍力を身につける忍者のように、少し話せばその人がゲイかノーマルかは大体見分けられるような修行を知らず知らずのうちに積んできていた。

ちなみに、私は日本にいるとき『そのとき、カツラが動いた』という本をパート3まで熟読した成果の賜物で、ズラについてもかなりの確率で見分けることができる特殊能力を持つに至っている。

履歴書の特技・資格の欄には運転免許の下に整形3段・ズラ8段・シリコン12級・ゲイ4段、と書き添えても差し支えないだろう。

そういったかなりの猛者であるので私の周りにいる上記のいずれかに属する方々はぜひ気を引き締めて挑ってきて欲しいと思う。

 

 部屋を見た帰り道では、やけに頬が緩んでいた。

駅までわりと距離がありしかも上り坂で、帰りに計ったところちょうど15分だった。

私の欲していた駅近物件とはかけ離れている。

治安の問題は私にとって最も真剣に考えなければならないポイントなので、

帰りが遅くなった時に駅から15分もかけて歩いて帰るなどということは絶対に避けたかった。

 

ところが私には恥ずかしながら人と違ったことをしたくてたまらないクソバカ野郎的な部分がある。

日本の友人たちに、今度ブラジルでゲイたちとアパートをシェアすることになった、と言いたくて堪らなくなってきた。

 

だがもちろんそれだけでは決めることはできない。

それにいろいろ考えると、やっぱりゲイとはいえ男性ばかりの家に女子ひとりで住むのは常識的にいかがなものだろうかとも思う。

明日もまた数軒、本来の希望である女子たちでシェアする部屋を見に行く予定をしている。

ここに決めたわけではない。まだここに決めたわけではないが、

 

それでも何か新しい日々が始まる予感はしていた。