ブラジル・日本人サンバダンサーの華麗な日常

ブラジルに住む日本人サンバダンサーの全く華麗ではない日々

サンドラさんとの奇妙な友情2

 この間はさらっと流したところだが、

サンドラさんは元娼婦だ。

彼女はそのことを隠さない。

家を借りて早い段階で自分からそのことを語ってくれた。

そして徐々に彼女からいろんな話を聞いた。

家がとてつもなく貧乏だったこと。

貧民街のその中でもさらに底辺の家に住み、小さい頃いつも裸足で、ベタに水を汲んで頭に水瓶を載せて運ぶような暮らしだったこと。

中学を卒業するときに家族に、「私は娼婦になる!」と宣言してそれから家族を養ったこと。

娼婦兼ダンサーとしてスイスなど海外で暮らしたこともあること。

まわりの娼婦たちはドラッグや男に溺れてお金を無駄遣いし身を持ち崩していくのを横目に、

自分の体を張って稼いだお金を貯めて自分と、家族にも3軒家を建てたこと。

頼んだわけでもないのだが、家に呼びこまれ若い頃のセミヌードの写真も見せてもらった。

長い付き合いであるのでわかるのだが、彼女はブラジル人の中でも群を抜いてきっちりしている。

特にお金に関して吝嗇家ではあるが決してずるくなく、ちゃんと自分の中に正しさの尺度を持っていて揺るがない。

結局、せっかく家まで建ててあげたというのに家族は彼女の金をあてにして働かず金の無心ばかりするようになり、

断ると逆恨みされ、兄弟が共謀してあわや殺されかけたこともあるという(どこまでが本当かは知らないが)。

だから、彼女は誰も信じないという。

あなたは信用できる人だ、と私が言っても、

ダメよjoE、他人を信用しちゃいけない、私のことも信用してはいけないよ、

と言う。

大家さんと言えども6つの狭いアパートを廉価で貸しているのでは、決して優雅な暮らしをできるほどの収入はない。

実際彼女は贅沢は好まないし質素な暮らしをしていて、さらに時間があれば帽子を縫ってビーチに売りに行ったり、小物を仕入れて近所で売ったりしている。

無頼派の働き者なのだ。

残念ながら彼女を利用しようという人も存在するので、相手によっては辛辣なところもある。

202号室に住んでいる、落書きのようなジャンクなタトゥーが体中に入っている推定年齢90歳の老人が近くの道でしばしば倒れ、

呼び出され駆け付けていたところ彼女や皆の気を引きたいための茶番だったことが発覚した時には、

「私はあなたの家族でもない他人だし、そんなに倒れるようではここに住むのはもう無理だから今度倒れたら施設にぶち込むぞ」

と中指を立てて言い放ち、それから彼は倒れることは無くなったという。

老人のちょっとしたわがままなんてかわいいものだと許してやれよ、と、甘ったれた日本人は言うかもしれない。

そんな貴様には溶解度超まで砂糖が入った濃厚ブラジルコーヒーを無理やり口に流し込みながらこう言うしかないだろう。

 

お前の考えはこのコーヒーより甘い、甘すぎる、と。

 

ブラジルでは、少なくともこの町では、たとえ老人といえども甘やかしてしまえば足元をすくわれることになるのだ。

そういった甘い考えを改めるまではこの歯が浮くほど甘くて濃いいコーヒーを飲まされ続けることになるので、夜眠れなくなったり体脂肪を増やすのが嫌な方はぜひ考え直して欲しい。

 

次はそのアパートに住む個性的な面々をご紹介しよう。